主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【福音】

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2017年4月21日

 

今夜も母の見舞いへ。

 

夕食後の時間に病室へ入ると、母はもうすっかり寝入っていた。テーブルの上にいつも置かれているリハビリ科からの予定メモを覗くと、今日は朝から午後にかけて、短い時間に3回のリハビリがあったらしい。きっと疲れているのだろうとは思ったが、そっと声をかけてみた。

 

「ああ、あんたが来てくれると、うれしい」(関西弁)

 

母はいつも、ぼくの顔を見るなりそう口にする。

 

寝入りの頃に起こされたこともあってか、今日はあまり話も弾まない。わずかな沈黙のあと、母が思い出したかのように口を開いた。

 

「ながいこと生きてきて、これは成功やったなぁと思うことがある」

 

──何かと思ってそっと耳を傾ける──

 

「それはあんたを産んだことや」

 

この、物語のようなシーンは、一体、何だ?

 

そんな冷静な分析は一瞬にして感情の波にのまれた。嗚咽を堪えるのが精一杯だった。

 

こんな気ままな日々を過ごしていられるのは、母のおかげだ。同時に、世間の親御さんが喜ぶこと──いい学校を出ていい会社に勤めて立派な社会人として家庭を持つ──を一足先に果たしてくれた兄の努力によるものだ。今、母がこうして何の不安もなく入院が続けられているのも、兄がいてくれるおかげ──。

 

ぼくはきっと、毎日何かをした手応えが欲しくて、こうして母を見舞っているだけなのかもしれない。多忙な兄の、またはぼくと入れ替わるように先立った父の代わりに、ぼくにできることをしている…。

 

これは、誰からもとがめられることにない、都合のいい言い訳なのだろうか?──。

 

帰り道、ずっとそんなことを考えていた。

 

そして、突然そんなことを言い出す母のことが少し心配になった。でも、確かにその言葉を受け取ったから、安心しておくれ。

 

この母のもとに生を授けられた幸運を、きちんと言葉にして伝えたい。

手遅れにならないうちに。

 

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