主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと

【胡麻と胡桃のイギリスパン】

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2018年12月24日

今日も早朝から起き出して、活動開始。クリスマスにパンを焼きながら大掃除の続きを実行したいと、数日前から考えていたのだ。朝のルーティンを終えたあと、温めた豆乳で割ったエスプレッソを飲み干して、早速パン作りに入った。

材料を混ぜ、粉まみれになりながらこね回し、バターの代わりにギーを馴染ませて仕上げた生地を、2度の発酵と焼き上げを合わせておよそ3時間を費やし、ようやく完成をみた。クリスマスにいただく胡麻と胡桃のイギリスパン──焼きたての香りを一番に嗅ぐ至福のとき…なんて愛しい瞬間だろう。

人生2度目のパン焼き体験で、しかも今回は初めての混ぜものをした。そのうえ季節は真冬。オーブンを駆使するもなかなか期待した発酵が促されずやきもきしたが、仕上がってしまえば初回時同様、「過ぎるほど美味しい」魅惑のパンが出来上がった。実は味見と称して、既に半分も食べてしまった次第である。

来月、母は誕生日を迎える。施設で誕生会を催して下さるとのことで、何かお祝いに記憶に残りそうなものを、と思って練習してみたのがこれ。出来立ての香ばしさを楽しませてあげることはできないから、少しでも香りが立つように、胡桃だけではなく、擦った胡麻も加えてみた。そうだ、オリーブオイルも持参しよう。イタリア好きの母がよく食べていたスタイルで味わってもらいたい。

そのときまでに、もう一度、練習する──もう2度とは来ない機会になるかもしれないのだから。

焼き上がりを待つ間、台所の大掃除を行った。これまで手付かずだったところも含めて徹底的に。不思議と、切りのいいところで1次発酵、2次発酵、焼き上がり…と進んでいった。


──近頃また、見事な流れに乗っている──


さて、午後からは我が使命を全うする時間──創作のなかへ還ろう。


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【クリスマスにパンを焼く】

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2018年12月24日

パンの焼き上がりを待ちながら、拙作をながめる正午前──。

嗚呼、それにしてもいい香りだ。パン屋さんの前を向いて通りかかったときと同じ、あの香りに満ちている。

仕上がりが待ち遠しい。

 


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【モノに宿る記憶──介護者生活の節目に】

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2018年12月23日

たしか12月に入ってからだと思う。何かに取り憑かれるように、毎日少しずつ掃除を始めたのは。

特にこの1週間ほどは、超朝型の生活周期に切りわかっていて、それまで眠る時間だった午前4時や5時に起きだしては、まるで作務でも行うかのように集中していた。

大掃除という目的もあったが、始めてみると、やはり節目の年を終えるに当たってやり残したことがあると気付いての行動だったように感じる。


──母の特別養護老人ホームへの入居──


それは、介護者として過ごしたこの6年間のひとつの区切りである。母はこの2年、入退院などが続き家を開けることがほとんどだった。その間に少しずつ整理してはいたけれど、母の帰宅が恐らくもう叶わなくなった今、これまで処分をためらっていたものの整理に着手すべきだと、心のどこかで思っていたのだろう。

そして今日、いよいよその締めくくりとなる場所を掘り起こした。


──母のクローゼット──


クローゼットといっても、物置同然だった。おかげで普段着は収めることができず、寝室に別の衣装棚を設けることになった。ぼくが収納方法を提案するまではひどい有様だったが、この形に落ち着いてからは、自分なりに使いこなせるようになっていた。

ここに隙間なくかけられていた服を、今日、整理してスペースができたクローゼットのなかにすべて収めた。唯一、母が使っていたバスローブだけそのままにした。父の位牌が納められた仏壇の隣に並ぶように。

いつだったか、もうだいぶ昔のことだったと記憶している。このバスローブは、当時ぼくが体調を崩したとき、お世話になっているひびのこづえさんから贈られたものだった。わざわざ寸法を直してくださったのに使う機会がなくそのままになっていたものを、母の入浴介助をするときに活用して、ようやく本来の役目を果たすようになったという一品である。

母は身体の自由が効かなくなっていたので、大きなサイズのバスローブは、とても役立った。特に肩の可動範囲が狭まっていたから、余裕ある大きなサイズは脱ぎ着させるときの負担を軽減してくれた。

脱衣所で脱ぎ着させると、立位で対処しなくてはならず、危険が伴う。そこでベッドでこのバスローブに着替えさせてから風呂場に案内していた。入浴後は、浴室内の手すりにつかまり立ちした状態でバスローブを着せて、寝室のある2階まで介助しつつ上がり、髪を乾かしてから着替えさせる──。

母の身体を洗うのは、はじめとても抵抗があったが、幼いころ、母との風呂の時間を楽しみにしていたことを回想しながら、母に少しでもリラックスしてもらえるようにと願い行っていたことを思い出す。浴槽にもかつぎこむようにして入れていた──入浴介助をしなくなってから、もう2年が経とうとしているだなんて…。

掃除の最中、母が入浴のときに使っていた座高の高い椅子と湯船に取り付けていた手すりがでてきた。いつか、どこかの施設に寄付したいと思いながら、今日も処分できずにいる。使うあてはもちろんないが、クローゼットのなかに収まりのいい場所を見つけて、そっとしまった。

母がたくさんの想い出をモノに宿して手元に残していたように、ぼくも同じことをしている…そんな気がした。


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【光、あれ──Let There Be Light】

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2018年12月20日

珍しく明け方から目覚めて活動的に動いた1日──。

主に早朝から大掃除をしていたのだが、今日のノルマを果たしてもまだ時間に余裕があった。そこで、いつもは夕方に向かう面会に、午後の早い時間から出掛けることにした。

運転中は、世界がセピア色に染まるサングラスをしている。枯葉散る澄んだ空気に満たされたこの季節は、視界の色合いも相まって、やけにセンチメンタルな気分に浸らせてくれる。

今日も母は、いつもと変わらず部屋で横になっていた。暖かい午後の陽射しが心地よい。ちょうど空気の入れ替えのタイミングだったのか、部屋は窓が開け放たれていて、レースのカーテンが風になびいてたゆたっていた。


──映画的な瞬間──


部屋を通り抜ける風がスライドドアのわずかな隙間から漏れて耳障りな物音を立てるため、着席する前にまず窓を閉めることにした。そして、母が使っている車椅子に腰掛けた。

このことろの母をみていると、不安や恐れ、苦痛や苛立ちなど、生きていくうえで背負ってしまうあらゆる厄介ごとから解き放たれているように映る。


──この境地に達するために──


人はもがきながらも生きる選択をするのかもしれない。

今日も母は和かに笑ってぼくを見つめる。時おり、衣装棚の上に置いた兄とぼくの写真に視線を送っては、また笑顔を浮かべる。


「笑ってる」


写真のなかのぼくの表情のことを言っているらしい。目の前にいるぼくの顔と見比べているようだが、どうやら別人に見えている様子だった。

何度も母には伝えているが、次の春、新国立劇場で初演される森山開次《NINJA》の音楽を担当することを改めて話した。すると最近の母らしく、精一杯の拍手をぼくに贈ってくれた。


「今、作曲を進めているよ」

「(拍手)」

「なかなか思うように進まないんだけどね」

「(拍手)」

「そこは拍手するところじゃないしょ(苦笑)」

「(拍手)」


そんなやりとりが続いた。

少し前のぼくなら、こんな母の様子をみて、胸が詰まる想いをしていたことだろう。もちろん、今でもそうした気持ちはあるけれど、コントロールできるようになってきている。


──母は元にいた場所に帰るんだ──


だから、それを祝福しないと、ね。

そして、こうして安寧の場で終のときを待ち侘びることができるなんて、どれほど幸運なことかしらない。

近ごろはとても寒いのに、今日、その瞬間だけはだいぶ暖かかった。西陽がたっぷり射し込むからだろうか? 西側のこの部屋に移ったのは正解だった。

その暖かさのせいか、母はうつらうつらとし始めた。少し眠たそうだった。今まで話をしていたかと思えば、急に口をつぐんで目を瞑る…まるで子供みたいに。


「じゃあ、仕事に戻るね」

「早よ帰り〜がんばれ!」


きっとこの瞬間だけ、母はチューニングを合わせてくれたに違いない。そうしていつだってぼくを励ましてくれていたのが母だった。

でも、がんばれなんて言われた記憶は、これまでない。


「あんたの好きにしぃや」


いつも母は、ぼくの迷いをみつめては、こう言って背中を押そうとしてくれた。それは、自分の意思で歩んできた母らしい励ましの言葉だった。今はもう、その言葉を聞くことはできないのだろうけれど。

いつも通り握手をして、席を立った。力強く手を引く母は、今日も変わりなかった。ドアの近くまできて振り返ると、母はもうすっかり寝入っていた。すると、静けさと穏やかさに満ち満ちた空気が母の居室を埋め尽くしていることに気づいた。午後の緩やかな光が、耳元でそっと語りかけるように、ぼくたち親子を包み込んでいた。


──光、あれ──


もしかしたら、ぼくはずっとこのときを待っていたのかもしれない。


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【永遠の光と暮らす】

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2018年12月22日

友人への贈りもののため、ながらく眠っていた拙作《シーン・オブ・ライト:AEON》を発掘した。このシリーズは、現在まで6作品あって、そのうち多いものでは、エディション3まで増版している。振り返ると、既に10点ほどがどなたかのもとで暮らしていることになると想像すると、とても光栄に思う。

久々に目にした拙作…その多くは2009年の台北でのアーティスト・イン・レジデンスで記録した写真を素材としてコラージュし、フォトアクリル化したもの。東京に戻ってきてから再度作り直して、完全なるコンディションとなった。

元々は映像作品だった本作だが、すべて光の写真で構成していたため、そのワンカットを切り出して写真作品にすることを目指した。

滞在中、台湾で出逢ったある女性が、自分のイングリッシュネームについて語って下さったことがあった。


──永遠──


その意味で、「AEON」と自ら名付けたと話して下さったとき、思わず胸が高鳴った。

その瞬間にしか存在しない光の情景を写真に永遠に封じ込める──それがこのシリーズ名の由来となった。

台北で過ごした10週間に目撃した光──それをぼくの心象風景として再構成したのがこれらの写真である。

その光を見つめてから、まもなく10年が経つ。2019年のチャイニーズニューイヤーには再訪したかったが、今のところその夢は叶いそうにない。けれど、あの光は、ぼくのなかで永遠に瞬いている。この作品が残っているのは、そのたったひとつの証明でもある。

友人に差し上げた1つを除いて、手元に残った2つを自宅に飾ってみることにした。母の寝室だった部屋には、母のためにひとりで折りあげた千羽鶴が残されている(埃を嫌ってジップロックのコンテナに入れたまま──これもまたAEONといえるかもしれない)。その隣にそっと飾った。母が大切にしていた鏡にうまく写りこむようにして…。

職能は、やはりこういう形で発揮されてこそ意味を成す──。

飾った途端、この家の空気が一変した。それは、ぼくの心が変わったとも言い換えられるだろう。


──それが、アートのちから──


贈りものという、作品と再会するには最高のきっかけをいただいたことに、深く深く感謝している。こうして日々、拙作を身近に感じながら、目指す彼方へと歩んでいこう。


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【朝から煮込んだ大根】

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2018年12月19日

昼夜逆転状態がひどいことになっている。

あまりに仕事に集中し過ぎて、完全に体内時計が狂ってしまった。最近は夜に目覚めて午後にねむる──そんな周期に陥っている。

それを改めようと少しずつ調整を重ね、今日は早朝に起き出して、昨日の夜から下ごしらえしておいた大根を煮た。

下茹ではもちろん、出汁を取る準備も終えてあったので、仕事はスムースに進んだ。出汁を取り終えた昆布も細く刻んでそのまま鍋に戻し、大根を煮ながら煮干しの出汁も追加で用意して鍋に加えた。既成品の白だし、あご出汁、わずかな調味料を加えて、完成。よく味がしみるように一度冷ましてから頂こうと思い、午後、仕事の打合せに出掛けた。

打合せのあと、父の墓参りを済ませて、仕事道具の調達を追えてきたくしたのは、夕方6時目前の、5時55分──いつからだろう。こうしたゾロ目の数字をよく目撃するようになった。なにかの前兆だろうか?

帰路はだいぶ腹ペコだったのだが、家に着くと疲れが急に回り出し食欲さえ失った。やはり寝不足が原因だろうか? こういう暮らしこそ、改めるべきだと痛感しながらも、未だ苦戦している。

こんなときこそ、暖かくて身体に優しいものを摂りたい。


──大根を用意しておいてよかった──


しっかり出汁をとって作ったことも功を奏した。その美味しさ、旨さがとても身に心に染み渡った。


──美味しい食事がある──


それは、当たり前ではないのだ。誰かがそれを叶えるために必死に守ってくれていたことを改めて想い、母の永年の献身に深く深く感謝した。


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【亡き父の誕生日に誓う】

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2018年12月19日

今日は亡き父の誕生日。LIVE BONEを初演した次の日、2010年12月19日から、こうしてここへ来るようになって9年が経つ。

大きなイチョウの木の下に、父の墓はある。思えばこの季節はすっかり葉が散っているが、もう少し早ければ、美しい紅葉が見られるのだろう。その代わりに、今日は綺麗なツツジの花に出逢った──たったそれだけのこと──そう、それだけのことで、なにかが変わることもある──そう思えた気がした。

いつもはここにきても、特別何も語ることもなく、ただ墓前に手を合わせて静かな時間を過ごすことがほとんどだったが、今日はたくさん話をした。


──誓い──


願いごと、というより、あれはぼくの宣言だったのだろう。ながらく陥っていたある状況から抜け出すことを、亡き父にも誓った。

そんなとき、今日は初めて思い浮かんだことがある。


──ぼくの後は誰がここを守るのか?──


そんな先の、まだ何もわからないことを考えても仕方がなかった。ぼくに今できるのは、今日の誓いを全うすること。そのことだけを考えたい。それが実行できれば、自ずと望む「今」を創ることができる──そう信じて、今年最後の墓参りを終えることにした。

今回も、父が愛したアサヒビールではなく、brewdogのクラフトビールを選んだ。名前は「native son」──アメリカ英語で「自州出身の人」という意味らしいが、ビール好きの父に贈るお供えとして、そしてそんな父のもとへやってくるぼくにとっても、とても相応しいネーミングだと思った。

どういうわけか、8月の命日に供えた同じbrewdogのPUNK IPAが暮石の隅にそのままになっていた。掃除のときに置き忘れられたのか、それともビールと分からず処分にこまったのか? 理由は定かではないが、持ち帰るのも流儀に反するような気がして、再度お供えし、盛大に父の誕生日を祝うことにした。

今年も年の瀬が押し迫っている。この時季ここへ来ると、1年の無事を何より幸運なことだと痛感する。それは、ぼくの生後間もないころ、48年も前に先立った父の加護のおかげだと、いつも感謝している。

帰ろうとして空を見上げると、はるか向こうに真昼の月が浮かんでいた。それは、ぼくをそっと見守るように、つぶらな瞳の形をしていた。


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