主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【誕生日に誓って──この3年を終えよう】

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2018年12月17日

48回目の誕生日の朝をひとり静かに迎えた。

去年はインフルエンザに見舞われた誕生日だった。今年は健康で迎えられ何よりだったが、数日前から創造のなかに没入していたため、ふと日常の感覚に目覚めたとき、あまりに不眠不休で連続作業をこなしていたことに気づき、一気に疲れが噴出してしまった。

そんななか、自らを祝うため、今年、珠洲から持ち帰った小豆を煮てみることにした。一晩つけ置きしておいた小豆を下茹でし、その後、塩で味付けをした。それだけで他に手を加えなくとも美味しくいただけるのは、素材の品質の高さゆえのことだろう。砂糖や水飴を加えればきっと記憶にある味になるはずだけれど、これはあえて素朴なままにしておきたい。

正午前、毎月通っている定期検診へ出掛けた。肌寒さは日増しに厳しくなるばかりだが、陽射しのなかに入れば暖かさもあり、気分は上々である。

 

ここに通いだして丸4年。介護に追い詰められ、心身の変化について自分で見つめるようになってから、既に3年近くが経つ。時に迷い、時に苦悶しながらも前進する選択を重ねてきたお陰で、今ではすっかり穏やかな時間が過ごせている。


──丁寧に暮らす──


いつからか抱いた目標である。それがここ最近になって、ようやく果たされつつあるような手応えを感じてきた。こうして食事を拵えることも、そのために時間を割くことも、その標があるがゆえのことだ。

この暮らしぶりがようやく板についてきたと感じた数日前の晴れた日、突然にある感覚が心に宿った。


──整った──


あの感覚を上手く言葉にできないまま、その「整った」という表現で主治医にその旨報告すると、その様子をこう言い表して下さった。


「歯車が噛み合ってきたのではないでしょうか」


そう。この感覚と言葉が、今年の誕生日の最大の贈りものなのだ。

もがき苦しんだこの3年を終えよう。その選択が下せるのは、このぼく自身だ。


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【これを愛と呼ぶのか?】

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2018年12月15日

午後、窓を開けて家の中の空気を入れ替えながら、食事の作り置きを始めた。

このところ絶やさず作っているキノコとホウレン草の煮浸しには、最近の手間の掛け方通りに昆布と鰹節の合わせだしをとって仕上げた。ホウレン草を湯がくための湯を沸かしながら合わせだしを温め、手元ではキノコたちを刻んでいく。開け放たれた窓から吹き込む冷気で手はかじかみ、頰を滑る風も冬場そのものだ──そんなとき、ある記憶が蘇ってきた。

60年以上前のこと。母が京都に嫁いだ先の家には、大きな土間があった。家で商売をしていた都合か、その土間はバイクや自動車の駐車場にも使われるほど広さがあった。ぼくの記憶のある時代には既に居間近くに移されていたが、嫁いだ当時、その土間に炊事場があったらしい。それはまさに昔ながらの光景だ。足元から立ち込める冷気に歯を食いしばりながら、大家族の長男の嫁として、家業を手伝いながらも家事をこなしていたという。近代のように蛇口を捻ればお湯が出せる給湯器もなければ、育児や家事に協力的な超近代型の家人はいるはずもない──そんな時代の話だ。


──こうしてぼくは育ててもらった──


母の留守の間にも母から譲り受けた料理という営みを自分のために続けていることが、時おり不思議に感じられる──それも今では出汁までとっている──。

母はよく口にしていた。


「自分のためには料理は作らん」


それは、料理に限ったことではないのではないかと最近感じるようになった。


──誰かのために生きる──


生命を始めとして、生きていくために不可欠なものごと──身体・精神・思考・感情・勇気・忍耐・誰かを想う心──を育むために食があるのなら、料理という営みは、全ての源と言える。その大切さを語らずして教えてくれた母を、かじかむ手で食材を刻みながら想った。そしてそのとき、感謝という想いを超えた何かを感じたのだ。

その或る想いは、時間と共に育まれていく。それが満ち満ちた時、明るめられる感情に気づかされる。


──これを愛と呼ぶのか?──


それが、母から授かったすべてだ。


──己を律する──


もう一度、初めからやり直し──。
それしか、母の愛に応える術をぼくはしらない。


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【夕陽のような朝陽のなかで】

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2018年12月14日

眠る前に30分ほど読書をしている。この時間に読むのは決まって小説だ。

昨夜はだいぶ作業に煮詰まり、目立った成果もなく、明け方、風呂に入った。前日はこのあと、驚異的な直感が働き一気に歌詩を書き終えたのだが、今日は何も起こらなかった。


──疲れが溜まっているのか?──


温まった身体でいつものように机に向かい、読みかけの本を手にとった。今日も物語の世界に浸りながら、色んなことに想いを馳せていた。もう数日で、この長い小説を読み終える。

本を閉じ、ふと窓辺に目をやると、午前7時半を過ぎたころだった。ぼくの左手には、母が大切にしていた鏡がある。パイン材の机の天板を照らしたデスクライトからの反射光が、日焼けとは無縁はぼくの表情を、より青白く浮かび上がらせていた。


──夕陽が部屋を照らしている──


ぼくには自ずとそう映った。

あれは母がまだこの家に暮らしていたころの出来事だった。夕方に居間に入ると、母は出掛ける支度を済ませ、椅子に腰掛けながらぼくを待っていた。次の日の朝早くから出掛ける予定があったのだが、どうやら母は、薄暮のころと明け方の見分けがつかなかったらしい。その日、随分と長く昼寝してしまって、昼と夜を勘違いしてしまったのだろう──今から4〜5年前の出来事だったかもしれない。この6年、たくさんのことがありすぎて、細かいことはもうよく思い出せない。ただ、大きな庇のついた帽子を被りサングラスをしていた母の後ろ姿を覚えている。きっとそれは、真夏の出来事だったのだろう。


「とうとう惚けたんかなぁ」


母は苦笑いして、その場を繕ってくれた。

母があの日、夕陽を感じながら整えたのは、かつて棲んだ場所へ帰るための支度だった。あれからだいぶ時間が過ぎた。変わりゆく母を見つめながら、様々な気づきを授かった。だから今なら、そのことがとてもよく想像できる。


──お迎えの声がかかった──


この世の母を絶えずみまもってきた、あの世の母自身から──。

今朝の朝陽のなかで、ふとそんなことを思い浮かべながらぼくは眠りについた。

    
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【家族に甘えた1日】

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2018年12月5日

家族に甘えた1日──。

たくさん泣いて、ときどき笑って…。

数々の非礼を詫び、これまでのわだかまりを解いた。

その支えに報いるために、もう一度、前へ。


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【最後の贈りもの】

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201811月29日

「息子さん、何されてるんですか?」

「さっ・・きょ・・・」

「んっ?」

「さっ・きょ・く」


面会時間終了目前に施設へ着くと、前夜、母の担当だったという方からこんなエピソードを聞かせていただいた。

その日も、ぼくのアルバムをかけて下さっていたそうだ。それを聴きながら笑っていた母に訊ねて下さったのだという。母は今、度重なる義歯の破損であまりうまく発音できない。


「息子さんたちご兄弟の写真をみて、いつも笑っていらっしゃいます」


母は横たわりながらも、自分も右手の少し離れたところにある衣類棚の上に置かれた写真に頻繁に目線をやる。そのことには気づいていたが、母の視線の角度から察して、母が愛したイタリア人指揮者=クラウディオ・アバドの写真を眺めているのだとぼくは思っていた。

ぼくたち兄弟の名前は思い出せなくても、アバドパヴァロッティなど、愛聴していた音楽家たちの名前と顔は今でも記憶に鮮明にあるらしい。50代を迎えた母は、遅くに産んだぼくの子育て役からもようやく解放されて、再び音楽を楽しみだした。時はバブル期──母は欧州まで演奏会を見に出掛けるほど熱心で、まさに自由を謳歌していた。


──中年期の黄金時代──


認知力が衰えても、最もいい時代の記憶は残ることが多いのだという。


──楽しかった日々の記憶──


それが母にとっては「音楽」なのだ。

今日の面会時も、母は頻繁に目線を写真の方にやった。


アバドの写真を見てるんだね」


「あんたの写真を見てるんや」


──心を揺さぶられた──


母は確かに、いつもと同じ視線を衣装棚の方に送っていた。見間違いはなかった…。職員の方から伝え聞いた言葉は、本当だったのだ。


──息子さんたちの写真を見ている──


母の記憶のなかに棲むぼくは、今もまだ、作曲家であるらしい。今年の春、一緒に観に行った森山開次《サーカス》の再演のことも憶えてくれていた。


──母のなかで、ぼくは作曲家として生きている──


その事実が母のなかにあること──その「今」がまだ目の前にある現実に、感謝の想いが溢れてきた。

来年、《サーカス》と同じ新国立劇場で初演される森山開次《NINJA》の音楽を任されたことも伝えた。すると母は、手を叩いて喜びを表現してくれた。それから先は、どんな言葉を伝えても手を叩いて笑顔を贈ってくれるようになった──例えば、こんな感じで。


「まだ嫁には出逢えそうにないんだけどさ」


(パチパチパチパチ)


すっかり板についた、ぼくの飛び切りの苦笑を母に返した。


子供帰りしていてもいい。記憶がなくなっても構わない。この笑顔が、終のそのときまで永くながく続きますように──ぼくは今、それだけを願っている。

母の笑顔をみまみりながら、その笑顔の素晴らしさを伝えた。


「笑いを贈ることって素敵だな、と、今になって母であるあなたから学んでいるよ」


(パチパチパチパチパチパチ)


「笑顔は連鎖するんだ」


(パチパチパチパチパチパチ)


「言葉が通じなければ笑えばいいんだよね」


(パチパチパチパチパチパチパチパチ)


「ホントにいい笑顔だね」


(パチパチパチパチパチパチパチパチ)


こうして綴りながら、その時間のことを想い出すと、どういうわけか、自然と視界が潤んでしまう。あんなに素敵な笑顔を想い出しているというのに…。


──母は永遠──


目の前から消え去るとき、母はぼくのなかに移り棲む。そして目を瞑れば、たくさんの想い出が蘇ってくる。この笑顔も、ぼくの記憶に頼れば想いのままに呼び覚ますことが可能だ。

ぼくだけじゃない。母を知るすべての人たちのなかに、母は棲むことができる。身体といういつか果てる器から解き放たれて、母は遂に、真に自由な存在へと帰っていく──。


──みまもる──


母が再び原初へと戻るその様を、しっかりと見届けたい。

その時間こそが、母がぼくに授けようとしている最後の贈りものに違いない。


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【レンズ豆とキヌア】

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2018年12月1日

パスタに代わる食材として、レンズ豆とキヌアを試そうしている──。

 

スパゲッティ・サラダのパスタ部分を置き換えてみることにしようと計画しているが、今夜は下茹でするところまででおしまい。

映像書き出し作業中に料理をするのは、とても効率が良く、自ずと気持ちが高鳴る。


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【新しい食生活】

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2018年11月28日

玄米、赤出汁、鯖の味噌煮、酢納豆、大根とアボカド・ブロッコリーのサラダ──これが最近の夕飯。

朝、1食目は(というより昼だが)、果物と乳製品とプロテイン…そしてコーヒー。夕食として2食目にこのような献立を摂って、今度はエスプレッソを淹れて豆乳で割ったものを飲み干して締める。3食目はプロテイン(または鶏胸肉の蒸し鶏)だけ。リラックスしたいときには、玄米茶をはじめとする日本茶をいただく──そんな食生活をしている。

今のところ、実に調子がいい、が──。

実験は続く。


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