主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【今にもぐっすり眠りたかった】

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2017年9月24日

 

9:24──朝、二泊三日の一時帰宅を終える母にオムレツを作った。ぼく自身、日常的に食べなくなったからケチャップの買い置きはない。

 

添えたほうれん草に加えて野菜炒めも少しだけ差し出してみたけれど、またさらに咀嚼力が衰えたのか、想像している以上により細かく刻まないと口の中に残ってしまうらしい。飲み込めず、大半をよけていた。

 

今朝も起床は変わらず午前6時過ぎ。ベッド下に取り付けた離床センサー代りの人感センサーが反応しなかったのか? それともぼくが深く眠っていて気付かなかったのか? トイレ内に設置していた人感センサーのサイン音が鳴り響いても何のことかしばらくわからず、トイレ内のみまもりカメラの画像をチェックしてようやくことの次第を把握できた。

 

家中どこにいても聴き逃さないようにあちこち受信機を設置しているものだから、深い眠りのときに突然音が鳴ると、とても身体に堪える。

 

あまりにドキッとしたせいか、この二日間、胸に僅かな痛みを覚えている。

 

母は無事にトイレにたどり着いたようだが、自律して尿が出せなくなった今、トイレに立たなくても膀胱に納められたバルーンに自動的に吸い取られることをやはり忘れていた。いつもはあまり尿がでないと報告を受けているが、今回の帰宅では水分をよくとっていたせいか、濁りも少なく十分な量が出せて一安心。尿も出せなくなると、それもまた別の問題を引き起こしかねない。

 

オムツを交換して着替えさせてから荷物の支度を。今日は日曜日ゆえ施設のお迎えサービスはなく自己対応となるため、約束の11時に間に合うように慌ただしく進める。

 

一歩足を出すのも戸惑うほどになっている母を車に乗せるだけでも一苦労だが、できる限り身体を動かしてもらいたいので介助は最小限に留めている。

 

 

──あと一歩──

 

 

未だ身体の自由が利く自分が、そこを待つことに対してどんな気分になるのかは、この場面に遭遇するまでわかるはずもなかった。

 

衰えゆく母を見つめる感情を苛立ちに変えることでしか、乗り切る術が未だに見つからない。

 

無論、その苛立ちは口には出さないのだけれど、子供がえりしている母はきっと、今までにないほど敏感に、ぼくの雰囲気で察しているに違いないなかった。

 

少し遠回りになる路を選んで施設に向かった。

 

母がかつて自転車で買物に駆け回っていた辺りに差し掛かると、予想した通りに口を開いた

 

 

「この辺り、懐かしいぃ。よく自転車で通ってたねん」

 

 

同じ話を何度も繰り返すようになってから、母はここを通るといつもそう口にする。あれからさらに状態が進んでも、まだここは記憶に残っているらしい。

 

 

──どこまで憶えているのか? 何を憶えていられるのか?──

 

 

施設に到着すると、担当ケアマネージャーが出迎えて下さった。居室の整理をしながら家での様子を申し伝えて、今日から再び始まる長期入所へのご挨拶をして、母に手を振り、足速に施設を後にした。

 

体力も気力も限界だった。もう、今にもぐっすり眠りたかった。

 

 

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【在宅介護を終えるとき】

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2017年9月23日

 

24:17──。

 

母の洗濯物を洗って、1日の終わりをようやく迎えた。

 

今夜は深夜まで放送されていた演芸番組を母が見入っていたこともあって、だいぶながく時間を一緒に過ごした。夕方、母は静かにテレビを楽しんでくれていたので、夕飯の支度まで仮眠を取るも、昨日からの寝不足が祟って、目覚めるとすっかり夜になってしまっていた。

 

もちろん目覚ましは、母が椅子から立ち上がった際に反応した人感センサーのブザー音。

 

携帯電話からモニターしていたみまもりカメラの映像にすぐさま目をやると、母がトイレに向かおうとする様子が映っていた。少し寝ぼけながらも飛び起きて二階の居間に駆け上がり、ことなきを得る。

 

こんなうっかりした瞬間に何かが起こってしまうものだが、今日は何事もなく、救われた。

 

寝坊を詫びてそのまま夕飯の支度を開始。今夜も母が喜ぶパスタだ。カルボナーラを拵えて二人で味わった。

 

最近の母はすっかり子供がえりしているので、ボソボソとこぼした麺を手づかみで口に運び、前掛け代わりに用意した真っ赤なナプキンを見事に油まみれにする。そんな様子を見つめながら、変わりゆく母の姿に嘆息しつつも、知るはずもない自分の幼いころの姿を重ね合わせている。

 

先月、今月と二タ月に渡って一時帰宅の機会があったが(ショートステイの連続利用に30日間という上限があるため)、常時みまもりと全介助が必要となった今、ひとりで母を看るのは、この二泊三日という時間が限界だとつくづくわかった。

 

 

──在宅介護を終えるとき──

 

 

当てのない旅路のごとく、終わりの見えない介護者としての時間に終焉の報せが届くのだとしたら、きっと今に違いない。

 

 

──いったいいつになったらゴールが見えるのか?──

 

 

その不安に押しつぶされてしまうケースは恐らく数知れない。現在の介護保険の制度上の趣旨は、

 

「公的サービスでできる限りサポートをするので自宅で看てください」

 

というものだと理解している。

 

そのせいか、誰も終わりの「目処」となる状況を示唆してはくれない。各ケースが異なり状況過ぎて比較できないことも理由にあるのだろう。

 

 

──「だから、やるしかない」──

 

 

介護を受け持つ方は、みなそう思って取り組んでいるはずだ。

 

そうやって少しずつ自ら経験して感じて、日々、自分の心のうちを知り、自ら結論を導き出していくほかない。

 

 

──ただ、これはだけは共有できる考え方になるのではないだろうか?──

 

 

──せめて自分の身の周りのことは自分でこなせる状態にあること──

 

 

さもないと、ひとりきりではとてもみまもることはできない。ましてぼくのように時間の不規則な暮らしをしていたら、公的サービスを頼るのも難しくなる。

 

乗り切っていくにはお金も本当に大切で欠かせないのだけれど、やはり一番必要なのは「人手」。

 

介護に限ったことではない。頼りになるのは、まさに字のごとく「信頼できる人」であることを今一度知ることができただけでも、この5年という時間は無駄ではなかった。

 

母の世話が重くなりかける前、少しでも家事負担を減らそうとフル全自動のこの洗濯機を手に入れて、母にも役割を与えるために使いかたをレクチャーしたときのことを、今夜思い出した。

 

既にこのころから理解力も衰えていたのか、なかなか手順が頭に入らなかったので、ボタンを押す順番を赤や青のテープでマーキングしてマニュアルまで作った。

 

確かその年の秋に、フランス・ナントまで作品展示にでかけたのだけれど、あの当時はまだひとりで留守番を任せられる状態だった。ゴミ出しも洗濯物できたし、お風呂もひとりで入れた。

 

 

──今はただ、今に在るのみ──

 

 

こうして、いずれ何もかも、ひとつずつ手放していかないと、この浮世を去る支度は整わないのだろう。

 

だとしたら、まだまだそのときは先になりそうだ。

 

 

──ぼくたちのことも、忘れてからにしないと、ね──

 

 

色々と思い残すと、心配になるだろうから。

 

 

大丈夫。こうしてたくさんの時間を遺してくれたから、ぼくたちの準備はきっともう整っている…はず。

 

 

──最期に身体を手放して、いよいよ解き放たれる──

 

 

そう思うと、人がこうして生きるのは、その最期を迎えるためなのかもしれない──。

 

 

それがどんなことなのか?

 

 

いつか母を無事に送って、この胸にしっかりと刻みたい。

 

 

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【さもそれこそが正義かのように】

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2017年9月23日

 

10:00──。

 

ながいながい1日が始まって既に4時間が過ぎた。

 

早朝からいろんな音楽の映像をみせるもすぐに飽きて

 

「次はこれ観たい」

「もうこれ飽きた」

 

という問答を繰り返す──。

 

ようやく今になって母の朝食を支度したが、ぼくはちょこちょこつまみ食いをしていたのと疲れがたたってあまり食欲なし。

 

 

──親の世話をしながら、子育ての大変さを想像する──

 

 

〈ワンオペ〉なんて最近言われるけれど、それがそもそも無理だから〈両親〉がいるのだろうし、かつては家族と地域の力を借りて暮らしていたわけだ。

 

それが適わぬ時代に移り変わって、子育てや介護を誰かに託すようになった今、人は誰かの受売りでさもそれこそ正義かのように「雇用が生まれる」なんてすぐに口にする。

 

 

──違和感が拭えない──

 

 

どんな仕組みもバランスが取れているうちはいい。

 

転換していくには、ぼくひとりのことでさえまだまだ時間がかかりそうだ(遠い目)

 

 

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【ぼくらは言葉に頼りすぎた】

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2017年9月22日

 

23:30──母を寝かしつけたあと、台所を綺麗にして、ようやく一時帰宅1日目を終える。

 

 

20:00──夕食を終えてからもアバドの演奏に母が興じているうちに、傍でせっせと作り置きを始めた。

 

 

──鶏胸肉の蒸し鶏・鶏肝と砂肝の生姜煮・鯖の味噌煮──

 

 

22:00──今夜最後の一品=「豚ロースとにんにくの芽の野菜炒め」を仕上げたところで、母に寝るよう促す。

 

だいぶ楽しんだ様子で、帰ってきてから休むことなく、7時間以上観続けていた。ベートーベンやマーラーの馴染みの交響曲の旋律を歌いながら…そして時おり指揮の真似をしながら…。

 

でも、横顔を眺めているとなんだかぼんやりしている。かと思えば、目につくものすべてに手を伸ばして、何度も何度も繰り返し触っては何かを確認している様子でとにかく落ち着きがない。

 

先月の一時帰宅のときも同じだった。

 

 

──手触りを求めているのか?──

 

 

会話は相変わらず噛み合わない。冷静に観察すると、こちらの質問にはほぼ応えられなくなっている。

 

 

「唐揚げってどう作るんだっけ?」

「この演目は現地でも観たの?」

 

 

質問の意味が理解できないのか言葉がでてこないのかわからないが、母から応えはなかった。

 

 

──自分から何か言葉を発するようにしてあげればいいのか──

 

 

そう気付いていくつか試すも、特に即効性はなし。

 

徐々に、こうした瞬間が増えていくことは想像できてはいる。しかし、今日もその時間に向き合うのは、かなり苦しいものだった。

 

 

──今すぐここから逃げ出したい──

 

 

この、相手とわかりあえないときに覚える身体の感触は、母に対しても同じだった。

 

 

──心は絶えず揺らぐもの──

 

 

それは悪いことではない、と、自らに言い聞かせながら、いつかの闇に沈まぬように一瞬一瞬を積み重ねていく──介護者としての5年という時間で得た術。

 

 

──ぼくらは、言葉に頼りすぎた──

 

 

母との噛み合わない会話が続き、理解が得られているのかと不安に押しつぶされそうになったとき、ふと、いつも感じていることが頭を過ぎった。

 

 

──この時間こそに価値がある──

 

 

通じ合えているかなんて、確かめようがない。こうした時間があることに目を向けよう。

 

 

──だから、これでいい。これでいいんだ。

 

 

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【音楽の力を信じて】

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2017年9月22日

 

母、帰宅──。

 

今回の一時帰宅中は、クラウディオ・アバド指揮の演奏会やオペラの映像を集中的にみせることにした。

 

音楽の力は凄まじく、日常的に会話が滞りがちでも、心に刻んだ旋律には今も呼応できる。

 

母が歌い出したら、まだまだ音楽への関心は揺らいでいないと言えるのかもしれない。

 

 

──最初の作品として選んだのはAlban Berg《WOZZECK》──

 

 

流石にこの音楽は歌えなさそうだけれど、幕間にアバドの指揮の様子が映ると、音を大きく変更して手を叩いて喜んでいる

 

 

──子供がえり──

 

 

それだけに、集中力も記憶力も子供並み、か。。(嘆息)

 

 

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【母、一時帰宅前──人感センサー、設定確認】

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2017年9月22日

 

母の一時帰宅を前に、各種配置したセンサーの再確認を。

 

前回の帰宅時に悩まされた居間の椅子から立ち上がりを知らせるために、新たに一基を追加して配置してみたが…どう設置しても、必要以上に鳴り響きそうな予感。

 

それでも、鳴らないよりはマシであろう。

 

転倒したら、今度こそ寝たきりになってしまうかもしれないから。

 

まもなく帰宅予定。丸々2日間、24時間体制のみまもりが始まる。

 

介護保険制度上の穴は、こうして自ら埋める他、ない。

 

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【すべてを変えてしまうには「一瞬」で事足りる】

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2017年9月19日

 

《WONDER WATER》3本の上演を終えてその夜に帰京し一夜明けた今日、早速、次回の珠洲でのパフォーマンスの打合せのため都心部まででた。

 

帰り道に少し寄り道したのは、六本木

 

 

──あのARK NOVAが東京にやってきた──

 

 

2011年8月、東北の震災のためにクラウディオ・アバド指揮、ルツェルン祝祭管弦楽団による《マーラー10番》の演奏をネット中継するイベントがあって、母と有楽町の東京国際フォーラムへ聴きに行ったことがある。

 

その場でこのARK NOVAのことを知り、今日は喜び勇んで向かったのだが、プレス限定の日だったらしく、内部は観られず。だが、六本木アートナイトにあわせて様々な催しがあるようなので、いいタイミングでの再訪を期したい。

 

2013年秋、アバドの来日公演が予定されていて、大ファンの母はとても楽しみにしていたのだけれど、予てからの病状が悪化してキャンセルになってしまった。

 

その翌年、母の誕生日の3日後にアバドは亡くなり、その報を受けて気が滅入ったのか、母も突然に不調を来した。

 

 

──「私より1日でもいいから長生きして欲しい」──

 

 

母が愛した世界トップクラスの指揮者は、偶然にも母と同い年。日本とイタリアという異なる土地で生まれ育ち、互いに異国の地で先の大戦を経験している。声楽家になることを夢見ていた母だったが、時代が適わず…しかし同じ時代を生きた憧れの指揮者は遠い国で夢を叶え、世界を活躍の場にしていた。

 

その愛しの指揮者の終を、知りたくはなかったのだろう。突然身体の節々が痛いと言いだし、ベッドから起き上がれなくなってしまうほどの状態に陥った。

 

振り返ると、その頃くらいから病院を行ったり来たりするようになっていった。

 

 

──あれから4年──

 

 

すべてを変えてしまうには「一瞬」で事足りると思い知らされた6年前のあの日のことを思えば、4年という時間は十分過ぎるほどながい。

 

しかし、こうして母との時間がたくさん残されていることに、今も絶えず感謝している。

 

今夜は、疲れが遅れてやってきて、母の面会にはいけなかった。明日、旅の報告をしに顔を出してこよう。

 

今日みたARK NOVAのことも。きっと、あのネット演奏会のことは、もう思いだせないだろうけれど。

 

 

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