主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【すべてを変えてしまうには「一瞬」で事足りる】

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2017年9月19日

 

《WONDER WATER》3本の上演を終えてその夜に帰京し一夜明けた今日、早速、次回の珠洲でのパフォーマンスの打合せのため都心部まででた。

 

帰り道に少し寄り道したのは、六本木

 

 

──あのARK NOVAが東京にやってきた──

 

 

2011年8月、東北の震災のためにクラウディオ・アバド指揮、ルツェルン祝祭管弦楽団による《マーラー10番》の演奏をネット中継するイベントがあって、母と有楽町の東京国際フォーラムへ聴きに行ったことがある。

 

その場でこのARK NOVAのことを知り、今日は喜び勇んで向かったのだが、プレス限定の日だったらしく、内部は観られず。だが、六本木アートナイトにあわせて様々な催しがあるようなので、いいタイミングでの再訪を期したい。

 

2013年秋、アバドの来日公演が予定されていて、大ファンの母はとても楽しみにしていたのだけれど、予てからの病状が悪化してキャンセルになってしまった。

 

その翌年、母の誕生日の3日後にアバドは亡くなり、その報を受けて気が滅入ったのか、母も突然に不調を来した。

 

 

──「私より1日でもいいから長生きして欲しい」──

 

 

母が愛した世界トップクラスの指揮者は、偶然にも母と同い年。日本とイタリアという異なる土地で生まれ育ち、互いに異国の地で先の大戦を経験している。声楽家になることを夢見ていた母だったが、時代が適わず…しかし同じ時代を生きた憧れの指揮者は遠い国で夢を叶え、世界を活躍の場にしていた。

 

その愛しの指揮者の終を、知りたくはなかったのだろう。突然身体の節々が痛いと言いだし、ベッドから起き上がれなくなってしまうほどの状態に陥った。

 

振り返ると、その頃くらいから病院を行ったり来たりするようになっていった。

 

 

──あれから4年──

 

 

すべてを変えてしまうには「一瞬」で事足りると思い知らされた6年前のあの日のことを思えば、4年という時間は十分過ぎるほどながい。

 

しかし、こうして母との時間がたくさん残されていることに、今も絶えず感謝している。

 

今夜は、疲れが遅れてやってきて、母の面会にはいけなかった。明日、旅の報告をしに顔を出してこよう。

 

今日みたARK NOVAのことも。きっと、あのネット演奏会のことは、もう思いだせないだろうけれど。

 

 

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【母こそ、今を生きている】

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2017年9月14日

 

旅の前に、今夜も母の面会にいった──。

 

先日、施設のスタッフの方から伺った

 

「タヌキの置物がいつ喋り出すのか?」

 

という話題を出してみたけれど、母はそんな話しを自分がしたことさえ憶えていないらしい。

 

無論、それはどうでもいいことだ。とにかく今夜も、いつも通り終始笑顔を絶やさず、ご満悦の様子だったのが何よりである。それが、ぼくを安心させるための芝居だったら驚きなのだけれど。

 

 

──母こそ、今を生きている──

 

 

人は過去にも未来にも生きることができない。

 

 

母の介護が始まって、出口の見えない不安に押しつぶされ、何度も何度も深い闇に陥った。既に存在しない〈かつての母の幻影〉を見つめながら、奔放に振る舞う目前の母に苛立ち、すべてを母のせいにして自ら絶望したあの日々──。

 

そこから再起を期して貫いてきた

 

「今を生きる」

 

という信条を、衰え行く母の姿から感じ取れたことは、まもなく丸5年を迎えようとしているこの月日が無駄ではなかったことを物語っている。

 

 

──「昔のことは忘れろ」──

 

 

映画《アンダーグラウンド》のラストカットで放蕩な主人公が言い放つあの台詞に出逢ったのは、たしか介護始まる前の年のことだった。

 

 

──「今を生きろ」──

 

 

それが母からの〈思考を超えたメッセージ〉──。

 

ぼくたちは「今」にしか、生きられないのだから。

 

帰り道、いつも通りプールに寄って、旅の支度を進めるため家路を急ぐも、突然思い立ち少し遠回りして、入所を検討している特養老人ホームの下見に向かった。内部の見学を希望する前に、まず周囲の様子などから感じるものを計りたいと思っていた。

 

ケアマネジャーからのアドバイス通り、自宅に近いというのはやはり大きな利点と言えそうだ。そして、面会にいく離れて暮らす家族のこともある。足が遠のかないよう、交通の便がいいに越したことはない。

 

今夜向かった先はところで空きはあるかもしれないが、スタッフの「新規募集」がかけられているということは、オペレーションはどうなのか? 経営は問題ないのか?

 

 

──母の終の住処──

 

 

熟慮すべき点はいくつもある。

 

頂いた冊子を参考にネットで情報を集め、10ヶ所程度に候補を絞った。

 

この秋の旅を終えたら、集中的に下見を進めよう。ゆっくり、穏やかに母が過ごせるのなら、それ以上は何も望まない。

 

 

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【タヌキはいつか話しだす】

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2017年9月12日

 

今夜も面会時間終了間際に施設に到着した。

 

今後の方針が決まってからは、母に事情を説明することもなくなったので、話題に困ることが多くなった。最近の面会は、洗濯物を届けにいって様子を聞いて、目にした記事や日頃体験したことを伝える…そんなパターンに陥っている。言葉がなかなか返ってこないため、話しが伝わっているのか不安になって、どうしたらいいのか? と、余計なことばかりが頭を過ってしまう

 

 

──ただ顔を見せればそれだけでいいのに──

 

 

墓のあるお寺さんから、法要の知らせが届いた。対応はもう随分前からぼくが引き継いでいるのだけれど、母宛の案内なので見せてみると…まさか、お寺の名前を読み間違えていた。

 

 

──こうして少しずつ、荷を降ろしていけばいい──

 

 

ぼくは随分、変わったと思う。

 

2年ほど前なら、こんな様子を知ったら、育んだ想像力が一気に暴走して、見えない明日に怯えてしまっていたけれど、今は、ただ目の前にある状況を受け止めることができるようになっている(自分にまつわることでも同じ)。

 

それは、セルフコントロール術をいくつか学んで実践し続けている成果であると同時に、この2年の間に、母を送るときがゆっくりと迫ってきている感触を絶えず感じ始めているから他ならない。

 

 

──なんでもひとりでこなしてきた母が、ひとつずつ、できないことが増えていく──

 

 

それをまさに〈ひとつずつ〉目撃していく辛さは、言葉にし得ない苦痛に近い感情だった。でも、それは〈自然の出来事〉だと繰り返し繰り返し言い聞かせては、ときに己の狂気に翻弄されながらも、なんとか正気を保ってきた。

 

 

人は生まれて、誰かの支えがないと育つことができない。

 

それと同じように、誰もが皆、誰かの世話になりながら、その生命を閉じてゆく。

 

 

──今の母は、まさにそのとき──

 

 

最初にいたどこかへ戻ろうとしている──。

 

 

大きな放物線を描いて天高く放たれた母の人生は、今そっと着地する支度を進めている。

 

あの頂きに近づいたときと同じ軌跡で。

 

 

──嗚呼、嗚咽が止まらない──

 

 

面会を終えて部屋を出る。

 

帰りのエレベーターホールまで案内されると、母がいつも声をかけるタヌキの置物が目に入った。

 

「タヌキちゃん、いつ話しだすのかね、とおっしゃっているんですよ」

 

どんなときも朗らかな空気を携えているある男性スタッフの方が、明るい表情でそう教えて下さった。

 

「ああ、絶対に話しださないとは、限りませんものね」

 

咄嗟にそう応えると、

 

「あの母にしてこの息子あり」

 

と言わんとした表情で、爽やかな笑顔を返して下さった。

 

 

──母はぼくと約束した通り、冗談を言ってスタッフの皆さんを楽しませているんだ──

 

 

今夜は、そう思うことにした。

 

 

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【幸福と幸運】

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2017年9月12日

 

毎日眺めている西向きの台所に立ってコーヒーを淹れながら、すりガラス越しに射し込んでくる西陽をぼんやり見つめる。

 

 

──ぼくの1日の始まり──

 

 

こうした隙間の時間、このところ「幸福」について想いを巡らせている。

 

この一年ほど、まるで自分に言い聞かせるように「幸運」である今を意識してきた。

 

今日もこうしていられること、

在り方は変わってしまったけれど今も母がこの世にいること…

見守ってくれる兄弟がいて、

絶えず気にかけてくれる仲間や同志もあり、

大いなる支えである先祖を感じ、

なおかつ馴染みの酒場に足を運べば掛け値無しに過ごせる親愛なる阿呆たちが暖かく迎えてくれる…

 

これを「幸運」と呼ばずしていられるかっ!

 

 

──その想いで自分を満たしてきた──

 

 

しかしそれと「幸福」は、なにか違う気がする。

 

 

──Happy or Lucky──

 

 

辞書を引くと、当たり前のように「定義」が記されている。

 

それは「辞書」という性格上、仕方ないことなのだけれど、こうしてすべての言葉に定義や意味が与えられてしまっていることに、激しい違和感を募らせてしまう。

 

 

──幸福というその言葉も意味も概念も消滅したとき──

 

 

それを「幸福」という〈状態〉にあると呼べるのではないだろうか?

 

「自分は幸福か?」

 

と考えてしまうのだとしたら…それは、

 

「自分はこの人を愛しているのか?」

 

と、理由を探そうとしてしまうのと同じだ。

 

 

──愛することに、理由などあってはならない──

 

 

幸福であることも、同様。

 

理由を求めたり、ある条件を満たしたからこそ得られるものであるはずがない。

 

いや、そもそも「得られる」ものやことではないのではなかったか?

 

 

──18時を過ぎた。

 

そろそろ母の面会にいく時間…

 

この「或る考察」はまだまだ終わらない。

 

 

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【ぼくには、知る術がない──46歳、旧式】

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2017年9月12日

 

4:44──。

 

1時間ほどつけ置きした胚芽米と胚芽大麦を土鍋で炊き始める。

 

「無洗米」という便利なものがあるのに、わざわざ米を研いでいるだなんて…。

 

手を動かさずして収入が得られない身分としてはなかなかスリリングな行為であるが、危うさを伴っているがゆえか、「生きる」実感が自ずと湧き上がってくる。

 

「なにもこんな手間のかかることをしなくても」

 

と、我ながら思うが、〈手間隙〉かけて育ててもらったながき日々のことをこうして想うだけで、この〈手間〉のなかに十分な意味を見出せるものだ。

 

 

──「表現者は、そこにいるだけでいい」──

 

 

この、ある恩師の言葉を深く実感したのは、台湾にいたときのことだ。

 

異国から突然やってきて、そこに暮らし、記憶という「存在証明書」を遺し、去る──。

 

数えることはもちろん、測ることも触れることさえもできない「かけがえのない何か」が確かにそこにはあって、それを日々噛み締めながら、恍惚と憂いの狭間で解のない問いに向き合い、逃れ得ない葛藤を覚えつつ、人々と過ごす

 

 

──「今、生きている」──

 

 

そう何度も何度も感じたあの日々と同じ肌触りを、今もこうして淡々とした時を重ねながら思い返している。

 

 

──あとどれだけ時間が残されているのか?──

 

 

ぼくには、知る術がない。

 

 

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【あんたが私の生きがいや】

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2017年9月6日

 

水泳、再開──。

 

自ら奏でる音の渦に朝まで呑み込まれ、その後しばらく気絶してから目覚めたあと、このあとの追い込み期間に一歩たりとも外へ出かけずに済むように、10日分のおかずを作り置きした。

 

粗熱が取れてすべての器を冷蔵庫にしまい込んだところで時計を確認すると、18時過ぎ。

 

 

──まだ面会に間に合う──

 

 

先週の外来受診付添い以降、母と顔を合わせていなかったから、急いで支度をして施設へ向かうことにした。

 

夕食後、19時を過ぎると、母はいつも居室のベッドに横になっている。このところあまり話題もないからお互いに言葉数も少ない。

 

 

──言葉に詰まって無音の時間が過ぎてゆく──

 

 

母は今日も和かな表情を浮かべながら、子供が大人を見上げるようにぼくをじっと見つめていた。

 

 

──「あんたが私の生きがいや」──

 

 

最近、顔を合わせると必ず母はそう口にする

 

 

「そんな風に今でも親に言ってもらえるなんて嬉しいよ」

 

 

なんて返したらいいのかわからず、ぼくはぎこちなく、そう応えた。

 

家で一緒に過ごしていたころは、毎日毎日、数えきれないほど「ありがとう」と言ってくれていた。それを想い出して、いつだったか「1万回のありがとう」を伝えてくれた、と、どこかに記したことがある。

 

これからは、この「あんたが生きがい」を、また数えきれないほど伝えてくれるのだろうか?

 

そのためにも、たくさん顔を見せにいかないと、ね。

 

股関節を痛めて以来遠ざかっていた水泳を、今夜から再開するため、面会のあと、そのまま区民プールへ向かった。

 

痩身する目的以上に、健康を維持するために去年からおよそ30年ぶりに始めた水泳…今夜は随分久しぶりだったけれど、去年極めたクロールで25mを6〜7ストロークというテンポは維持できていた(あと1ストローク縮めたい)

 

 

──親より長生きできるか?──

 

 

それは誰にもわからない。だからできることを、あせらず、少しずつ。

 

「川瀬」というその名に恥じず、水の中ではいつもとても落ち着く。

 

 

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【帰る場所を、母に】

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2017年9月5日

 

初秋の静かな夜、ここにこうして腰をかけると、この5年の様々なことが頭をよぎる。

 

寝静まる母の傍らで明け方まで料理を作り置いたあと、まだ夜が明けきらぬ薄暗いこの部屋で、淹れたての玄米茶で一服した日々のことや、母の突然の不調で24時間のみまもりが欠かせなくなって、ここで朦朧としながら進まない仕事に焦りを募らせていた夜のことなど、数え切れない記憶が次々蘇ってくる──。

 

そしていつか、逃れることのできない「そのとき」を過ぎたころ、かつてそんな毎日があったと、ここでこうして腰掛けながら、ひとり懐かしく想い出すときがくるのだろう。

 

母が不在でも、毎日やることはたくさんある。

 

家もやはり生き物で、誰も住まわなくなると、驚くほど色褪せてしまうものだ。

 

 

──帰る場所を、母に──

 

 

この家は、その拠り所。

 

しかし場所があるだけでは、機能は果たさない。

 

 

──奏でられることのない飾られたままの楽器がそうであるように──

 

 

逃げ惑い、思案している暇はもうない。

 

 

──前へ。

 

 

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