主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと

【父の命日】

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2017年8月8日

 

8月4日──父の命日。

 

昨日、数日遅れて墓前に向かった。

 

寺町だけに最寄りの便利店には線香の取扱いがあったのだが、時代の波には逆らえなくなっていた。合併され設えも新たに見慣れた店舗と化した馴染みの店では、案じた通り「売上の少ないもの」の取扱いは終了となっていた。

 

 

──困った──

 

 

と思った矢先、この界隈の酒場で出逢った某店の常連さんと遭遇。声をかけて下さった。

 

事情を話すと「家にありますからどうぞ」と言って近所のご自宅に案内していただいた。そして父の墓前にまで手を合わせていただき…ありがたいと同時に感謝の気持ちでいっぱいだった。

 

四谷荒木町に寄せられていったのは、育った街の記憶を補完するためだけではない。お酒が好きだったという父が眠る墓がそばにあるからでもあった。

 

 

──なんだか安心する──

 

 

そのお陰で、ぼくはここでたくさん甘えさせてもらっている。

 

「時間もお金も使って何になる?」

 

良識あると世間から言われる方にはそう揶揄されることだろう。

 

でもここには、そんな数や量では測れないものが、まさに数え切れないほどある。それは、この街でたくさんの人たちと触れ合わないかぎりわかるはずもないこと。

 

 

──いや、それはきっと、ぼくだけしか知り得ないことなのだろう──

 

 

父が好きだったタバコとビールを供えて、いただいた線香を焚き、短い時間で母の近況を報告した。

 

また年の瀬に。

 

 

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【夏の夕暮れ】

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2017年8月6日

 

リハビリと称して、懐かしい横浜の街を松葉杖をつきながら闊歩した昨日の疲れを未だ覚えながら、蝉の声が響き渡る夏らしい空をぼんやりと見上げている。

 

 

──ひとりの時間を楽しみ過ぎだ──

 

 

5年もの間、こんな時間は味わえなかったのだし、いいじゃないか──。

 

そう思いながらも、違和感というか不安というか、未だ言葉になり得ない不穏な感情がどこかに潜んでいる気がしてならない。

 

 

──これからまだまだ役目は続く──

 

 

今はきっと束の間の休息。

この創造力にも一時停止願おう。

 

 

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【夢に出るほど縁遠い】

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2017年8月3日

 

「まだあの人は夢にででけえへんは」

 

母は夢の話になると、よくそう口にしては、いつもの笑顔を添えて大きな声で笑った。

 

続いて父のことを引き合いに出すから、ぼくは毎度のように

 

「おかげで長生きさせてもらっているじゃん」

 

と返していた。

 

昨夜も居間のソファーで眠ってしまったらしい。寝苦しいはずなのに、それでも今は、布団で寝ている寝室より股関節の痛みにはいいようだ。

 

今日は母の介護ベッド返却のためスペースを作ろうと、玄関に置いたままの拙作《ROCKSTAR》を動かしたせいか、痛みが少し強くでていたから、自ずとこの場所を寝床に選んだのかもしれない。

 

いや、もしかすると、理由はそれだけではなかったのかもしれない。

 

 

──午前3時──

 

 

相変わらず妙な時間に目が覚めて、仕事を進めようと居間を出ると、隣にある母の寝室が自然と目に入った。ガラスのふすま越しに居間の灯りが緩やかに射し込んで影を落としている。昼間、ベッドが運び出された後の図とはだいぶ違った印象に見えるから不思議だ

 

 

──今夜、夢に母が出てきた──

 

 

仕事を手伝ってもらうというありえない設定だった。照明作品でも作ろうとしていたのか、たくさんの電球とケーブル、電源タップに囲まれていた。ぼくの作業する場所からは電球が目視できなかったようで、回線チェックのサポートを母にお願いしていた。

 

「ぼくがスイッチを入れるから電気がつくか見ていて」

 

そうお願いして隣の部屋から指示を出すぼく。

 

しかし母はテレビに夢中で、時折作業を中断させるように

 

「ほれ、ここが見せ場なんや」

 

と、大きな声をあげて楽しんでいる。お気に入りの指揮者のオペラかオーケストラの演奏でも聴いていたのだろう。そんな態度を受けて、ぼくはつい苛立って大声で怒鳴ってしまった。

 

 

──母が家にいた頃の、苦しかった日々の記憶──

 

 

認知機能が衰えてくると、人の話を遮ってでも気になったことに反応してしまうことがあるという

 

「人が話をしているとき邪魔したらあかん」

 

幼い頃、構って欲しくて、電話している母の横でうるさくしていたことがよくあった。そのたび、母はきちんとぼくを躾けてくれたのに、自分がそう教えてくれたことが、いまできなくなっている。

 

当時のぼくに、母が認知症になるという高齢者なら誰にでも起こりうる現実を受け入れる余裕があったら、あんな態度で母を叱りつけることもなかっただろう。

 

以前の母なら、ぼくがそんな態度をしたら

 

「怒るんでもケンカ腰じゃなく普通に言ったらええ」

 

と言い返してくれたはずだったが、いつからか、もうケンカさえできないようになっていた。ぼくの苛立ちを見ても、いつも母は何が起きたのかわからない様子で、キョトンとした表情でぼくを見つめるばかりだった。

 

のちに脳の萎縮度合いを測る画像診断検査等を経て認知症の傾向ありだと分かり始めてから、自分でも母の症状について勉強してみると、ある文献に

 

「叱られたことは記憶に残る」

 

と記されていた。

 

母は今でもぼくを誰かに紹介するとき、時折こう口にする。

 

「この子はあれはダメこれしちゃダメと、よく叱るのよ」

 

今夜、夢に母が出てきた。介護ベッドを返した日の夜に──。

 

 

時間はこうして、確かな足取りで前に前に進んでいく。

 

そのことを、絶えず忘れないようにしたい。

 

 

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【さよなら介護ベッド】

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2017年8月2日

 

母の今後の介護プランについてケアマネージャーと話し合いを続けて、昨日、方針が決まった。

 

今回の方も現実と照らし合わせながら慎重にアイデアを出して下さる。そしてありがたいのは、今のぼくの状況をとても考慮していただいたこと。

 

股関節の故障は不本意ではあったけれど、それなりにぼくも歳を重ねているため、常に万全の状態で母を看ることができるわけではないことをこの段階で実感できたという意味では、今後を決定するためには欠かせないエピソードだったと言える。

 

新しいケアプランもまとまって、以降はお取引させていただく福祉用具レンタル業者も変更となる。今朝はこれまで長らくお世話になった業者の方が用具の数々を引取りにいらした。

 

朝、返却するベッドを整えていると、足元に離床センサー代りに取り付けた人感センサーがあることを思い出した。結束バンドで完璧に固定している様子を確認して、ぼくの性格をとてもよく表しているように感じた

 

 

──確か、初めてこのベッドが我が家にやってきたのは、雪の降る日の朝だった──

 

 

ベッドの解体はあっという間だった。その間、担当者と母にことについて色々とお話をさせていただいた。ご自身のご家族の介護のことなども聞かせていただいて、わずかな時間だったけれど、貴重な機会となった。

 

母が入院からそのまま施設へ移ることになってから、これまで母をサポートいただいていた在宅介護支援のスタッフの皆さんとの関わりもなくなっていった。

 

訪問リハビリ、往診医、訪問歯科衛生、通所リハビリ、福祉用具レンタル…そして、居宅介護支援ケアマネージャー。

 

本当にたくさんの皆さんに支えていただいていたのだと、今、改めて感慨深く思い返している。

 

これからまた別のかたちでの母の支援が始まる。せめて自分の体調だけはきちんと整えたい。

 

今日、久々に顔を合わせた福祉用具の担当者からは

 

「だいぶ痩せましたね」

 

と言われるくらい、健康管理の成果は出ているはずだったのだが…思いもよらぬ股関節痛に見舞われたこの二タ月。

 

そう、いつだって「思いもよらぬこと」が誰にだって起こりうるのだ。そのとき後悔しないように日々を過ごしていこう。

 

またいつか、ぼくを取り巻く状況が変わって母を自宅で看ることができるようになったら、元気な姿でもう一度みなさんにお世話になりたい。

 

さよなら。また逢う日まで。

 

 

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【父の遺言】

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2017年8月1日

 

母が入所している老人保健施設があるこの場所は、江戸時代には城内だった場所らしい。陽当たりのいいこの丘でお殿様らがある嗜みに興じていたのだという。どおりでここは、他とは違う空気が流れているわけだ。ここへ来ること自体、苦にならない雰囲気があるのがなによりありがたい。

 

このところは週に一度ほどになっている母の面会。お陰で先週はぼくの名前を思い出せなくなってしまった。

 

「いよいよこのときがきたな」

 

いつもの調子でそう母に伝えると、

 

「あれ? なんやったっけ? でもあんたがきてくれるとそれだけでうれしい」

 

そういつもの決めゼリフを添えて、母は普段と変わらぬ様子で顔をくしゃくしゃにしてケタケタと声をあげて笑ってくれた。

 

なんだかこのところの母は、とても可愛らしく見える。例えば自分に子供を授けられたとしたら、こんな気持ちでその子を見つめるのだろうか?

 

 

──名前なんて、ただの記号──

 

 

だから忘れたって構わない。いつか顔も思い出せなくなったとき、どんな気持ちになるのか? そのときまで母を看ていられたとしたら、それほど幸せなことはない。

 

 

今日は予定されていた退所前訪問(退所日に備えて自宅でどれだけ過ごせるのかをためす機会)が母の体調不良でキャンセルになったので、様子を聞くと

 

「えっ? 体調はええよ」

 

といって、またニコニコしている

 

 

──これも変わらずいつもの調子──

 

 

売出し中のスポーツ選手のように、どんなときでも

 

「よく寝てよく食べて元気です」

 

と絶好調をアピールする朗らかな母は、施設でもとてもよくしていただいている様子だ。新しく着任した二人のケアマネージャー(老健/居宅介護支援)とスタッフのみなさんも自然と和やかな空気場に与えて下さっている

 

 

──母は幸運──

 

 

その幸運にぼくらも守られてきたことに、この5年、幾度も感謝の気持ちを抱いた。

 

真剣な眼差しで生きることを語ったりは一切しなかった母だが、思えば、まだ育ち盛りの兄と生後間もないぼくを抱えて未亡人になったのだから(それも今から50年近く前の女性の社会進出が阻まれていた時代に)、さぞ不安に駆られる日々もあったに違いない。

 

けれど

 

「それはもう大変やったでぇ」

 

という程度で、どんなときも穏やかだった。

 

生後8ヶ月で父に先立たれたぼくとしては疑問に感じることがあった。それを今まで母に問うたことがなかったことを思い出し、今日、初めて訊いてみた。

 

 

「幼子を遺して先立つ定めに直面したら、ぼくなら手紙を書くなどするけど、なんかなかったの?」

 

「あらへんよ。あの人は自分のことばかりやったからなぁ」

 

 

伝え聞く父のことは、まさにこの言葉に集約されている。

 

でも、母に聞いた話題では、友人の葬儀では誰より先に立って棺を運び出すお手伝いをするような気質だったらしい。

 

 

「あんたそんなに棺桶ばかり運んどったら、さっさとあの世に呼ばれてまうで」

 

 

そんな冗談がまさか早々に現実になろうとは、母も思わなかったことだろう。

 

 

「あの世に呼ばんといでや」

 

「お前なんか呼ぶかぁ〜彼女を呼ぶはぁ〜」

 

 

最期のときが近づいたころ、母と父が交わした会話だ。母はぼくの名前を思い出せないときがある今でも、この話しをよくしてくれる。

 

 

「それはさ、男子ゆえの照れ隠しだよね」

 

 

本当のことは、なかなか素直に表現できないもの。お陰でこうして母は、今もぼくたち兄弟のそばにいてくれる。これはきっと、亡き父の加護だと、ぼくは信じて止まない。

 

 

──それがきっと、伝えられることのなかった父の遺言──

 

 

また暑い夏がやってきた。そろそろ、父の命日が近づいている。

 

 

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【母へ。ありがとう。】

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2017年8月1日

 

膨大な時間を費やした。

 

何の目的もなく見返りも求めずに、ただただ必死で取組んだ。いや、無心といった方がよいのか? 今の気分を強いて言葉にするならこうだ

 

 

──満ち足りている──

 

 

あれから30年、積み上げてきたすべてを一曲に注いだ。それも自分のためではない、というところがまた心地よい

 

 

──それは、恩返し──

 

 

作業を進めるなか、そんな気持ちが湧いてきたけれど、終えてみるとまた違った気持ちがあることに気づいた

 

 

──ぜんぶ彼らから授けられたもの──

 

 

母がぼくに始まりを授けてくれたのと同じだった。

 

 

そして改めて想う──。

 

 

母へ。ありがとう。

 

 

今日予定されていた退所前訪問は先ほど延期された。また熱が出てきたらしい。

 

このところ、この作業に熱中し過ぎて顔を出せていなかったから、今日は面会に向かおう。

 

 

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【あれから3年】

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2017年7月31日

 

昨日の夜、黒猫に逢った。

 

常軌を逸するとはまさにこのことかと我ながら呆れるほど連日昼夜問わずに敢行した〈GET WILD REMIX〉。そのための作業を明け方まで行って眠りに就こうとしたもののかなわず、結局不眠のまま朝一番で血液検査を受けるため、お世話になっているクリニックへ向かった。

 

「寝てないんですが、検査を受けても大丈夫なんでしょうか?」

 

そんな冗談交じりの会話から問診がスタート。ぼくの暮らしぶりに理解ある主治医は、最新の血圧データを確認しながら

 

「それだけ仕事に没頭してもこれだけいい数値ならまず安心ですね」

 

と、いつもの穏やかな笑顔を絶やすことなく伝えてくれた。

 

 

──ここへ来てから3年ほどがたった──

 

 

お陰で今があるのだと、自然と感謝の気持ちが湧き上がった。

 

検査のため空腹のままだったから、朝食を食べて帰ろうとするも、時間はまだ10時前。ほとんどのお店は未だ支度中だった。諦めて帰宅する間も、REMIXの仕上がりを絶えずチェック。気になるところがまた見つかり修正リストに加えるも、家に着いたところで力尽き、ようやく入眠を果たした。

 

目覚めたのは、確か20時ごろ。まだ今日の時間が残っているうちに、作り置きのために食材を買い求めに出ることにした。

 

夜風の心地よい静かな時間。カチカチと松葉杖を着く音を立てながら夜道を歩いていると、一匹の黒猫がぼくを見つめたまま立ち止まった

 

「ひとりは気楽でいいものだよな〜お互いに」

 

そう声をかけると、過ぎ去ろうとしていた猫がまた立ち止まってぼくを見つめた。

 

夜中に逆光を浴びた松葉杖姿のこの巨漢を、あの路面から近い視線で見上げたらどんあ不思議な物体に見えたのだろう? いや、もしかしたらあの黒猫も、ぼくのことを自分を映す鏡のように見つめていたのかも知れない。

 

LEDに切り替えられているはずの街路灯は、水銀燈のような薄い緑色を含んだ光を放っているように見えたのは気のせいだろうか? なんだか悪くない色合いだと思えたのは、その光の色に包まれていた愛しい場所の記憶があるからに他ならない

 

──そこを巣立って3年──

 

そんな風に感じた夜は、昨日が初めてだった。

 

 

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