今年もどうやら例年通り、桜のころを迎えているらしい。
この1週間、母の見舞いから完全に遠ざかっていた。家からもさほど離れていないし、向かえない特別な理由があったわけでもない。いや、もしかしたら、単に拒絶していたのだろうか? 繰り返される変わり映えのない会話や周りの入院患者の様子、そして何より、病院特有のあの雰囲気に耐えられなくなっていたのかもしれない。
その間、現実から目をそらすように、だいぶ無茶な時間を過ごしていた。はたから見たらそれこそ無為に映るのだろう。
しかしぼくには、何も無駄はなかった。
久しぶりに顔を合わせた母は、ぼくをみてなんだか嬉しそうだった──
「憶えていますか?」
「もちろんや! 大事な息子は忘れません」
この1週間に味わった時間のことをいつもの話芸を駆使して話した。
母はいつものように、ぼくが笑ってほしいところで笑ってくれた。眼に涙を浮かべるほどに。
先々のことを考えて、面会は、駐車場が課金されない間の僅かな時間だけにしている。帰りぎわ、「もう帰るんか?」と母に言われて思い出した。子供のころ、叔母に預けられていたぼくも、同じことを母に口にしていた。
手を振りながらベッドのカーテンを閉めたあと、思わず独り、苦笑を浮かべた。
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