主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと

【明日のことは誰も知らない】

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2017年11月20日

 

今夜は、細めの弦を張ったギターと戯れる──。

 

昨夜の練習では太めの弦を張ったギターを使った。僅かな違いでも弦全体のテンションは変わってくるから、やはり細いと押さえる力が少なくて済むので手には優しい。

 

最近よく聴いているアルバムに合わせて、全編通して演奏しながら練習している。ソロを弾くだけではなく、曲に別のメロディを乗せるイメージで取り組んでいる。ボリュームやピッキングをコントロールしつつトーンにも注意を払いながら、ライブでプレイするつもりで、休まずおよそ1時間…。

 

母の面会以外はまったく出歩かず毎晩こんなことをやっているものだから、そろそろ疲れも溜まり始めている。

 

 

──明日のことは誰も知らない──

 

 

母の今を現実としてみまもりながら、日々そう強く想う。

 

だから、今はこうしていたい。

 

きっとそうに違いない。

 

 

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【前を向くために】

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2017年11月17日

 

「どうするんだっけな?」

 

もうながい間、窓を磨く気持ちの余裕さえなかった。あらゆることに追い詰められ、ときにそれから逃れることばかりに注力しては、気づくと身近なことから疎かになっていた。

 

 

──ガラスみがきとワイパーを買ってきて汚れを拭き取れば手間も減るのか?──

 

 

そんなことを想像するだけで、重たい腰はますます上がらなくなる。

 

 

〈雑巾を絞って拭けばいい〉

 

 

こんな簡単なことを思い出すまでに、随分と時間がかかった。

 

窓を拭いて、ベランダの手すりを磨いて、シャッターボックスの汚れを落として…その間、繰り返し繰り返し絞った雑巾は、何色と表現するのが正確なのかさえ思い当たらないほど、すべての色を寄せ集めて、異様に残酷な物質と化した。一方、不思議と水は黒ずむことはなかったが、無論、透明度はゼロ。手も染まりそうなほど深く濃い鈍色をしていた。

 

 

──これが、母とぼくの5年という時間だった──

 

 

母が不在となったこの1年、溜め込まれた不用品を処分したり、使われないままの大量の食器を譲ったり…自分の仕事道具も厳選して、とにかく身軽になろうと試みてきた。

 

最近は、網戸を張り替えたり、ベランダや庭など家の外装を整えたり、母が大切にしていた花瓶や器を磨いたり…。

 

今のままでは叶うはずもないことをしりながら…それでも何かを変えたいと必死になってこの住処を再構築していた。

 

 

──母をいつでも迎えられるように──

 

 

在宅介護と自分の暮らしという〈ふたつの日常〉を見つめながらではとてもこなせなかったことに、今日、ようやく目処がついた気がする。

 

あれから、とてつもないほど、ながいながい月日が経っていた。

 

まだまだ整理するべきこと、果たすべき責任はあるけれど、やっと少しずつこなしていけそうな感触が湧いてきている。

 

 

──視界良好──

 

 

さて、そろそろ前に進もう。

 

 

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【母へ音楽の贈りもの】

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2017年11月15日

 

ゆっくりとゆるやかに子供がえりをしている今の母に、何か退屈しのぎはないだろうか?

 

本はあまり読まないからいつも新聞ばかり届けていたけれど、

 

「そうだ!音楽はどうだろう?」

 

と今ごろ気がついて訊ねてみた

 

 

「譜面はまだ読めるかい?」

 

 

売り出し中の女優や有能なエンジニアのように、何でも「できる」と口にする母は、期待通りに応えてくれた。

 

これまでは、オーディオプレイヤーを渡そうと思っていたのだけれど、ヘッドフォンでひとりで聴き入るより入居者の皆さんと交流した方がいいのでためらっていたのだが、譜面なら、その場で母が歌えば全員が共有できる。

 

母にゆかりのある曲といったら、トリノ五輪の開会式で思わず号泣させられたパバロッティの歌唱が未だに鮮明に記憶に残っている〈誰も寝てはならぬ〉、そして、この曲をオーケストラ伴奏で歌いたいがために単独行動派の母が地域のママさんコーラスに入部してソプラノに挑んだ〈第九-歓喜の歌-〉だ(目的を達成した途端に退部したときには、実に母らしいと思った)。

 

久しぶりに出向いた池袋ヤマハ楽器で2曲とも手ごろなスコアが見つかったので迷わず手にした。

 

それだけだときっと楽しめないだろうと(そもそも今の母が譜面を読めるとは信じがたい)、母が愛した指揮者=クラウディオ・アバドが携わった音楽にまつわる絵本を添えた。

 

「たしか家にあったはず」

 

と探してみたけれど見当たらず、ヤマハの帰りにジュンク堂本店へ立ち寄ると、まるでぼくが手に取るのを待ちわびていたかのように、たった一冊だけ在庫があった。

 

施設に預ける持ちものには名札を付けることになっている

 

「普通に名前をふってもなぁ...」

 

そこで思いついたのはこれ

 

 

──ひろえ音楽室──

 

 

周りのみなさんとの会話の種になればいいな。

 

 

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【安心の食卓】

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2017年11月12日

 

Back to the Basic──。

 

母の不調が契機となり主夫ロマンティックと化して丸5年。ほとんどの家事をなかなかのハイレベルでこなしてきたゆえか、主夫的バーンアウトを味わっているこの頃、特に料理への探究心…いや意欲がなくなってきている。

 

この1年、入退院等を繰り返して母が不在だったこともその理由のひとつだろう。

 

 

──作る目的がない──

 

 

母はことあるごとに口にしていた。

 

 

──「自分のためだけなら料理はせん」──

 

 

その気持ちが今ではよく想像できるようになった。

 

こんなときは、初心に戻るがいい。そう思って今日は早朝から台所に立った。

 

母が高齢になってきたころから、ぼんやり考えていたことがある。

 

 

──「このレシピを引き継いでおきたい」──

 

 

それがまさか、あんな出来事が引き金になろうとは、全く想像だにしなかった。

 

ある秋の日の正午前、母は自宅内で転落事故を起こして頭部をコンクリートの床に強打した。在宅だったぼくは、これまで聴いたことのないほど大きな物音に戦慄して、なかば覚悟を決めて母のもとに駆け寄った。

 

台所の床に横たわっていた母は微動だにしない。問いかけには応答するも、意識は朦朧としている。そのまま救急搬送され入院。脳震盪という診断だったが、病室へ運ばれた際は口もきけず、頰に触っても感覚はなさそうだった。

 

幸い、翌日には意識も感覚も戻り、相変わらずの調子でよく喋り出したので一安心だったが、1週間後、退院してから次々と歯車が狂い始めた。

 

止まらないめまい…それを抑えるための薬が合わずさらなる不調を来し…そんな状況下での自宅療養中、横になっていたソファーから転げ落ちて、反射的に手を着いた際に手首を骨折してしまった。

 

 

──全治2ヶ月──

 

 

それが、主夫ロマンティック誕生のきっかけである。

 

 

最初に教わったのは、食卓によく出てきていたぼくのお気に入りの三品。

 

 

──里芋の煮物・茄子の肉味噌炒め・鶏肉と野菜のトマト煮──

 

 

買物に一緒に出かけて食材を選んで、調理方法を伝授される…材料の切り方から手ほどきを受けたけれど、初めから手取り足取り、という感じではなかった気がする。普段の食卓で、味付けや材料、調理方法のことなど、よく話題にしてくれていたからだろう。食材を全くダメにしてしまうような大きな失敗はほとんど経験せずに済んだのは、きっとそのお陰。

 

今朝、手を動かしながら、教えてもらった日のことを思い返していた。

 

 

──「安心の食卓を守りたい」──

 

 

その想いから始まっていたに違いない。ここにいるときだけは、すべてから守られている。

 

どんなに嫌なことがあっても、家に帰って食卓に付くと、何があったのかさえ聞かずに、母がそっと食事を差し出してくれる。

 

 

──「ほら、おたべ。これ、あんた好きやろ」──

 

 

そんな風にして──。

 

 

そのせいだろう。食事の席で仕事の話や日頃の愚痴、着地点のない議論や身のない噂話はしたくない。

 

 

──ここは、そのための場じゃない──

 

 

ただひたすらに、愉快な話をしたらいい。話題がなければ耳を澄まして、目の前の食事に集中すればいい。

 

 

だってこれは、あなたを想って作られた料理なんだから。

 

 

何より大切なことを語らずして教えてくれた母へ──。

 

ありがとう。

この想いをできるだけ多くのひとたちへ伝えていきます。

 

 

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【居心地のいい孤独】

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2017年11月11日

 

ベルリンから戻ってちょうど1年ほど経った──。

 

わずか10日間の滞在だったけれど、あの街の肌触りはとてもよく憶えている。東京に帰ってきてから、どこかの街角でそれと似た感触を想い出すことがある。今日も母との面会に向かう道すがら、そんな瞬間を味わっていた。

 

それは、街並みや気候が醸し出す雰囲気ゆえのことなのか? と、これまでは考えていたけれど、どうやらそうではなかったようだ。

 

 

──居心地のいい孤独──

 

 

ほとんど誰とも会話を交わさない今の時間が、あの滞在期間と似ている。

 

 

──これが、待ち望んでいた静かな暮らし?か──

 

 

思えば、今年になった途端に母が入院してしまって、日常的な会話はほとんどなくなった。

 

それを埋めるように、足繁く見舞いに出かけたり、馴染みの酒場を彷徨ったり、誰かを求めてみたり…。

 

それでも、どうしても埋められないものがあるのだと、今になって思い知らされた気持ちだ。

 

気の置けない仲間や馴染みの面々との会話も欠かすことはできないけれど、やはり家族との会話は、それとはまた違った特別なものなのだろう。

 

母との会話は、ゆるやかに内容を帯びなくなりつつある。まるで子供との戯れのようだけれど、それで十分。

 

ただ在ることの価値を日々、母から教えられている。

 

 

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【この森を抜けて──介護の日】

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2017年11月11日

 

今日は歩いて面会に行くことにした。

 

先日、母が入所している施設の隣にある病院まで健康診断を受けに歩いていったのと同じ道順だ。片道30分ほどかかる見込みだったけれど、歩くテンポもよかったのか、予想よりハイペースで近づいていた。

 

この森を目の前にして、

 

「あとは森の外周にある小道を行けば到着」

 

と思ったところでふと気付いた。

 

 

──「森を抜けた方が早い」──

 

 

どれだけ距離があるかわからなかったけれど、緩やかな斜面を登り切ると、もう目の前に見慣れた建物があった。

 

 

──5分短縮──

 

 

落ち葉を踏みしめる心地よい音を感じて、もう木々が色づき始めていることを知った。

 

 

──ここも真っ赤に染まるのだろうか?──

 

 

この森にも、忘れ得ない記憶がある。

 

できればこちらにずっとお世話になりたいけれど、入所待ちしている方も多いはずなのでわがままは言えない。

 

でも、希望だけは出してみたい。

 

母が住まう絵が見えるのは、ここだけだから。

 

 

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【現存するレトロ──時間という荒波を超えて】

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2017年11月11日

 

果たして、このオーブンはいつから家にいるのだろう?

 

ビルトイン式はもちろん、電子レンジやオーブンレンジさえ存在しなかった遥か昔から我が家を見つめ続けてきたこのオレンジ色の電熱式オーブンを、今朝、壊してしまった。

 

母は、何事につけあまり手入れをしないものだから、焦げかすやら焼きもちやトーストのカケラやらがトレイの下にたくさん溜まっていた。

 

永年その様子を目にするたび

 

「どうやって掃除するんだ?」

 

と思案していたのだが、今日初めて本体を持ち上げて底を覗いてみたところ、内部を掃除するための蓋を発見。迷わず開けて燃えカスを取り除いているとき、電熱線を被う管に指が触れた途端、折れてしまった。

 

幸い砕けはしなかったので、補強や接着などすることもなくそのまま現状復帰させて、試運転を試みる。特に問題なさそうだけれど…なんだか不吉だ。

 

熱も下がったし、今日は早い時間に母の面会に行ってこよう。また洗濯物も溜まっているだろうから。

 

いつだったか、

 

「そろそろ買い換えたら?」

 

と勧めて手にした同種のオーブンは、機能も使い方もほとんど変わらなかったのに、何が気に入らなかったのか、

 

「加減がようわからん」

 

と言って、すぐに押入れの奥にしまわれてしまった

(現在は、あるバーにもらわれて役目を果たしている)。

 

 

──何か想い出でもあったのだろうか?──

 

 

それを差し引いたとしても、色も形もとてもいい。ぼく自身もなんだか愛着のようなものを覚えているからこそ、使い続けているに違いない。

 

昔のモノにノスタルジーを感じているわけではない。当時のデザインだって淘汰されたものの方が圧倒的に多いはずだ。

 

 

──「現存するレトロ」──

 

 

古典にしろ様式にしろ常識にしろ、今ここにあるものは「時間という荒波」を超えてきただけの理由があるのだと、ジリジリと音を立てて時を刻むタイマーの音に耳を澄ましながら、想いを馳せている。

 

 

──15分──

 

 

最長時間に設定した空焼きが終わった。折れた管の傷は、焼入れされたかのごとく目立たなくなっている。

 

そして…数十年かけて染み込んだであろうバターとトーストの焼けた香りが、今、母が不在のままのこの居間を満たしている。

 

母がこだわったのは、この香りのことだったのかもしれない。

 

 

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